ボールルーム・ダンス・テクニックISTDThe Ballroom Technique をJBDFが和訳した教本。通称ボルテク)で、「1の終わりでライズ」あるいは「3の終わりでロアー」などというように「~の終わりで~する」という表現があちこちで見られますが、ボルテクをお読みになっている方は、これをどのように解釈されているでしょうか。
 
これらの1や3というのが、ボルテクのチャートの左端の欄のステップの番号だというのはだれでもすぐにわかることですが、その後の説明が日本語なので次のように理解されているのではないかと思います。
 
「1の終わりでライズ」=「ステップ1の終わりの方でかつステップ1が終わるまでにライズする」
 
「3の終わりでロアー」=「ステップ3の終わりの方でかつステップ1が終わるまでにロアーする」

 

しかし、原文の英語を正確に理解しているならば、以下のような意味になるように翻訳すべきでした。

 「1の終わりでライズ」=「ステップ1が完了したらすぐにライズという動作を始める」
 
 「3の終わりでロアー」=「ステップ3が完了したらすぐにロアーという動作を行う」
 
tama注: Rise(上昇する)もLower(下降する)もそれぞれの動作を行うという意味ですが、その動作をいつまで継続するかという意味は含まれていません。
 

根拠その1

ボルテクのもとの The Ballroom Technique ではこれらは以下のように記載されています。
 
 “Com to rise e/o 1”
 
“Lower e/o of 3”
 
 The Ballroom Technique では Com はcommence(~を始める)、 e/o は end of の省略語であると説明されています。
 
たしかにこの end of だけでは、「~の終わり」は一般的な日本語では「ある物事の最後の一部分」という意味ですし、さらに以下のように英語の end にもそれと同じ意味があります。
 
End

1. singular noun

The end of something such as a period of time, an event, a book, or a film is the last part of it or the final point in it.
期間、イベント、本、または映画などの何かの ”End” とは、それの最後の部分またはそれの最後のポイントである。(拙訳)
 
The £5 banknote was first issued at the end of the 18th century. [of]
The report is expected by the end of the year. [of]
You will have the chance to ask questions at the end.
 
出所:Collins Cobuild Learner’s Dictionary
 
そのため「1の終わりでライズ」ないし「3の終わりでロアー」と翻訳しても間違いとは言えません。
 
しかし、実は、 “Com to rise e/o 1″ や”Lower e/o of 3” のままでは、 極めて不自然な片言の英語にしか聞こえません。
 
これらの e/o 1 あるいは e/o 3 は、at the end of 1 ないし at the end of 3 と解釈して初めて正しい英語になります。
 
tama注:  The Ballroom Technique でそのような書き方をした理由は、英語が横書きでかつアルファベットしか持たないために、文章を記載する際しばしば省略語を使ったり、特に表形式の場合、同一欄で共通に使われる単語(今回は “at the ” )を省略することは珍しくないからだと推測されます。
 
at an end ないし at the end of ~ という前置詞句の意味は、アメリカ英語、イギリス英語のいずれも以下の意味です。
 
At an end
phrase

If something is at an end, it has finished and will not continue.
もしなにかが at an end の状態であるということは、それが完了し、かつ継続しないという状態にあることである。
 
The court has passed sentence and the matter is now at an end.
The recession is definitely at an end.
 
 
出所:Collins Cobuild Learner’s Dictionary
 
つまり、at the end of ~ というのは、of ~ がすべて終わった時点ということになります。
 
(注)
なお辞書ではat an end と記載しているのに対し、私の解釈では at the end of 1 などのように書いているので、この解釈が正しいという根拠にはならないと考える方もいらっしゃるかもしれませんが、この場合、of 1 のようにof 以下で特定の end であると限定されているので、不定冠詞の an の代わりに、定冠詞の the をつけただけですので、意味は同じです。
 
たとえば上の例で言うと下図の▲印の時点です。

 

 

たとえば、ボルテクで言えば、ワルツのナチュラル・スピン・ターンのステップ3の男子では以下のようになっていますので、ステップ3の指示が全て終わった時点からロアーを始めるということです。すなわち足の位置で言えばステップ3で「右足 左足にクローズ」してから、ステップ4で「左足を後退」しながらロアーせよ」と記載していることになります。
 
 
つまり、最初に説明したように、和訳文を根拠にした解釈は誤りで、以下のように解釈するのが正しいということです。
 
「1の終わりでライズ」=「ステップ1が完了したらすぐにライズを始める」
 
「3の終わりでロアー」= 「ステップ3が完了したらすぐにロアーする」
 
根拠その2
 
また、このことは、最近手に入れたアレックス・ムーア(Ballroom Techniqueの著者)の著書 “Ballroom Dancing” およびビクター・シルベスターの著書 “Theory and Technique of Ballroom Dancing 1936 Edition” でも、読者が勘違いしないようにわざわざ注書きをつけています。
あとでその個所を引用して記載します。

 

誤解が生じている原因

このような誤解が生じている原因は、現在出版されているISTDThe Ballroom Techniqueは第10版(1982年)以降改定されておらず、しかも、その中のライズ&フォールはフットライズ、フットロアー、ノーフットライズだけであり、レッグロアー、レッグライズが含まれていないからです。もちろんISTDのBallroom Techniqueを翻訳したボルテクについても同様です。

その根拠はいくつかありますが、フットとレッグによるライズ&フォールは以下のような違いがあるのに対して、チャートのライズ&フォールでは、どのフィガーにおいてもライズから始まっていることがその根拠の一つです。

フット  くるぶしを伸ばしてライズし、それからくるぶしを元に戻してロアー

レッグ  膝を曲げてロアーし、それから膝を伸ばしてライズする

 

実際のムーブメント

実際には、プロやアマチュアのトップクラスの方たちのワルツなどの動画をご覧になれば一目瞭然ですが、(ステップ3で)「右足 左足にクローズ」してから、(ステップ4で)「左足を後退」しながらロアー」しています。
 
以下にナチュラル・スピンターンの分解画像のスライドを掲示してあります。
 
 
ですからそのステップで踊っている限り、「~の終わりで~する」を、 「3の終わりでロアー」= 「ステップ3の終わりの方でかつ完了するまでにロアーする」と誤解していたとしても現実的な問題にはなりにくいと思います。
 
しかし、ボルテクないしWDSFのテクニックブックをより深く分析しようとするならば、こういった英語と日本語の違いがあり得ることを意識しておくほうが良いと思います。