ワルツのナチュラル・スピン・ターンは以下のボルテクのチャートのように6つのステップから構成されています。

このうちステップ4がピボット・ターンと呼ばれそのステップで1/2回転しなければなりません。またステップ5とステップ6の2つのステップがスピン・ターンとよばれ、その2つで3/8回転しなければなりません。

このうちピボット・ターンは、その前のステップ3で両足をクローズした後から始めるのでボディが回転していないところから始めますが、そこからたった1歩で1/2回転することが要求されるので、だれでも教わるベーシック・ステップでありながら、ボールルームダンスで使われるテクニックの中でも最も難しいもののひとつだと思います。

そのため、そのテクニックも、最初にヴィクター・シルベスター等がISTDの要請によりイングリッシュ・スタイルのボールルーム・ダンスを標準化したときから、21世紀の現代まで、少しずつ変化して来ています。

その変更点を、もっぱら男子のステップ4(男子左足後退)に着目して比較してみたいと思います。その変更点は以下の5つです。

(A)ステップ4の左足をLODに対してどの方向に置くか
(B)ステップ4の左足のフットワーク(H、B、T)をどう使うか
(C)ステップ4の左足によるボディの回転量をどうするか
(D)ステップ4の左足のつま先の向きをどうするか
(E)ステップ4の左足後退の歩幅をどうするか

 

(1)1936年 Theory and Technique of Ballroom Dancing 4th Edition (Victor Silvester)

この教本では上記の点についての詳しい説明はなし。

 

(2)1936年 Ballroom Dancing 4th Edition (Alex Moore)

この時点では以下のように指定されていました。

(A)は、LODに沿って後退した位置
(B)は、B(ボール)でピボット
(C)は、基本はコーナーで行うべきである
   コーナーで行う場合は1/4から1/3回転
   しかし熟練者が同じLODに沿って行う場合は、1/2回転
(D)は特に指定はない
(E)初心者はステップ4の歩幅はごく僅かにすること

この踊り方の問題点は以下の通りです。

(A)ピボット・ターンは男子内回り、女子外回りです。そのため男子にLODに後退されると、女子は男子の周りを大きく弧を描いて回らなければならず、回転量が不十分になりやすいのです。この教本のなかでアレックス・ムーアは初心者にはステップ4の左足はごくわずか後退するようにアドバイスしているのですが、これがその理由です。

(B)接触面積のちいさなボールでもって、回転していないステップ3の状態からボディを1/2回転させるのは、運動物理学からみると非合理的です。

(C)は至極当然なので、問題というわけではありません。

(D)は現代のように回転しやすくするためのトー・ターンド・インがありません。

(E)ステップ4の歩幅を小さくすると回転量は不足しにくいのですが、スイング運動がそこで中断されてしまう問題があります。

 

(3)1982年 The Ballroom Technique 10th Edition (ISTD)

この教本はこの第10版が最新版で、それ以降は改定されていません。この最新版では以下のように指定されているため、未改善点および改善された点だけでなく改悪点がでてきました。日本で販売されているボルテクはこの版ないしそれより古い版を翻訳していますので、この教本と同じ問題を抱えています。

(A)は、LODに沿って後退した位置のままなので、未改善のままです。

(B)は、「フットワークはTHTとなっているが実際に回転が行われている間ヒールはフロアにコンタクトしている」というように変更されたため、ボディの右回転に力を与えやすくなりました。ただ、「実際に回転が行われている間」というのが、抽象的なままです。

(C)は、回転の少ないスピン・ターンを行う場合、コーナーで行う場合だけでなく部屋の側面で行うことも許容することが明記されています。しかしそうすると一時的にダンス会場でのLODの流れを阻害することになり、これについては改悪と言わざるを得ません。

(D)は、左足のトー・ターンド・インが許されたため、右回転がやりやすくなっています。

(E)についてはステップ4の歩幅を小さくするという記載はなくなりましたが、それを禁止するということではないため、その歩幅を小さくするアマチュアの男子が大変多いという状況が現在も続いています。

 

(4)その後の改善の動き

(3)の後、ボルテクの改定までには至っていませんでしたが、(A)に関しては改善の動きはあったようです。

以下をご覧ください。

ナチュラル・スピン・ターンの足型には2種類ある

 

(5)2012 WDSF Technique Book (Waltz)

2012年に出たWDSFの教本では、それらの問題はかなり解決されています。

(A)は、「左足後ろ少し横へ」に変更されているため、外回りの女子の大きな動きが軽減されました。

(B)は、フットワークはBHBとなっているが、フットワークと絡み合わせて、ピボットのテクニックの説明で1ページ全部、ピボッティング・アクションの説明で1/2ページを費やしています。

(C)は、回転の少ないスピン・ターンを行う場合、コーナーで行う場合だけでなく部屋の側面で行うことも許容するかどうかについての記載はないようです。

(D)は左足のトー・ターンド・インが許されているため、右回転がやりやすくなっています。

(E)についてはステップ4の歩幅を小さくするという記載はありませんが、(A)の変更によって、初心者でも部屋の側面で正規の1/2回転のナチュラル・スピン・ターンを行いやすくなると思います。

 

(6)現在のトッププロのナチュラル・スピン・ターンの実例

(5)のWDSFの教本の踊り方は、WDSFだけでなくWDCを含め世界の競技会で踊られているものをテキストに落とし込んだけだと思われます。

例として、以下の記事に、WDCの元世界チャンピオンのアルナス&カチューシャ組や、WDCとWDSFの両方で世界チャンピオンだったミルコ&アレッシア組のナチュラル・スピン・ターンの動画と分解画像を掲載しています。

分解画像によるムーブメントの分析