(1)ダンスのステップとビートのタイミング
ボルテクの各種目のフィガーのリストの初めには、ステップとビートの関係について以下のように記載されています。
WALTZ
拍子記号=3/4
アクセントは第1ビート
各ステップ=1ビート
ビートと小節の数え方 123 223 323 423
FOXTROT
拍子記号=4/4
アクセントは第1ビートと第3ビート
“S”カウント=2ビート
“Q”カウント=1ビート
ビートと小節の数え方 1234 2234 3234 4234
これだけを読めば、誰でも、教本は、「各ステップは音楽の第1ビートが鳴ると同時に足の踏み出しを開始する」というように指示していると考えると思います。私自身もそうでした。しかし、ワルツやフォックストロットのトッププロが踊っている動画を実際に観察すると、第1ビートが鳴る前に足を踏み出し、第1ビートが鳴ると同時に出した足を着地するというタイミングで踊っています。ですから「各ステップは音楽の第1ビートが鳴ると同時に足の踏み出しを開始する」というのは誤解です。
参考のため、JDSFの公認指導員の講習会教本のベーシック・タイミングの1節を引用しておきます。
ベーシック・タイミングでは、踊りが音楽にぴたりとあっていなければならない。つまり音楽のビートで、体重が然るべき足部に乗っていることを意味している。例えばナチュラル・ターンの1歩目は音楽の小節の1拍目と全く同時でなければならない。これができるようにするには、前の小節の3拍目で前進または後退のためにボディを動かす準備をする必要がある。ワルツで、音楽の1小節を聞き、3拍目で動き出して次の小節の1拍目と同時に完全に体重がステップした足部に乗れるようにする。これがベーシック・タイミングである。JDSFの公認指導員の講習会教本のベーシック・タイミング
(2)なぜそういう誤解がうまれたのか?
このように音楽のビートに、出した足の着地のタイミングを合わせるというのは、ダンスでなくても、たとえば行進曲にあわせて行進せよと言われたらだれもが無意識に行っていることだと思います。ダンスにおいても、昔からそのように音楽に合わせて踊っていただろうということは想像に難くないですし、実際にも、ボルテクが出版されるより以前のボールルームダンスでもそのような合わせ方をしていたことは、たとえば、以下のようなニュースフィルムでも見ることができます。
また米国議会図書館が、数百年前から第一次大戦後あたりまでの欧米のダンス教本のコレクションがあるのですが、それら昔のダンス教本の踊りを再現した動画集でも見ることができます。
最初に述べた「各ステップは音楽の第1ビートが鳴ると同時に足を踏み出す」という誤解の原因がどこにあるのか考えた結果、その原因は、ISTDによってイングリッシュ・スタイルのボールルームダンスが標準化されたことによるものではないかという結論に至りました。その結論に至ったのは、私の調べた限りでは、標準化されるまでは、シーケンシャルに踊るダンスだけであり、パーティなどで自由に踊るために、フィガーを組み合わせて踊るといういわゆるノンシーケンシャル・ダンスという発想の教本が皆無だったことに気がついたからです。
そういうことを可能にするためには、だれでもわかるように、ムーブメントを客観的に記述することが求められたはずであり、さらに、各フィガーの記述を両足が揃ったところから始め、両足が揃ったところで終わるという記載方法が一番合理的だと考えたのではないでしょうか。そのためには各フィガーを両足が揃ったところから次に揃えるところをステップとするということが必要になります。ただ、その記載方法は合理的だとは思いますが、それを採用したことで、ステップの意味が二重になり、本来の正しい音楽への合わせ方ではなく、「各ステップは音楽のビートが鳴ると同時に足を踏み出す」という誤解をも生み出すことになったのではないかということです。、まあ、その経過はどうあれ、アレックス・ムーアMBEの Ballroom Dancing を詳しく読めば「各ステップは音楽のビートが鳴ると同時に足を踏み出す」と理解すると、自己矛盾が生じることがわかります。その自己矛盾については、 Ballroom Dancing を引用しながら、この記事に追記したいと思います。