Last Updated on 2022年5月18日 by tama

トーンの意味

社交ダンスでときどきトーンとかボディ・トーンという言葉が使われます。
たとえば、WDSFのテクニックブックのRise and Fallの項で以下のような使われ方をしています。
 
The calf muscle is toned
  ふくらはぎの筋肉にトーンを持たせる
 
しかしトーンが具体的になにを意味しているのか残念ながら理解しやすい説明を目にしたことがありません。
私が調べたところでは、トーン、すなわち英語のToneは、いくつかの意味を持っていますが、社交ダンスで使われる場合、本来の英語を考慮するとおおよそ以下のような概念だと考えればわかりやすいように思います。
 
 
トーン
トーン(tone)とくにマッスル・トーン(muscle tone)とは、弾力性を持ち、かつ強さをコントロールされた筋肉の張りである
 
出所:Collins Cobuild Learner’s Dictionary その他
 
 
くわしくは以下を参照ください。
 
 
なおここでわたしが述べている筋肉とは意志によって動かすことのできる随意筋を指しています。

 

トーンが発生する仕組み

ロープの両端を引っ張ると、ピンと張られ、ロープを横から押しても反対に押し返す力を感じます。
またエキスパンダーの両端のハンドルを持って広げるとエキスパンダーのコイルばねが伸ばされてこれまたピンと張られます。
このような張りの状態にあるときトーンを持っていると言えると思います。
 
筋肉のトーンも基本的にはその筋肉を両端から引っ張られることによって生じます。
しかし、上の例とちがうのは筋肉のトーンは一定ではなく意志によってコントロールが可能だということです。
たとえば、筋肉は力を入れない状態では、限度はありますが両端から引っ張られると伸びていきますので、このような場合ほとんどトーンは発生しません。
また筋肉の両端を固定された状態で、筋肉に力を入れると収縮力が発生し、張りすなわちトーンが発生します。
このことを生理学では、等尺性収縮と呼びます。
 
なお筋肉は自分自身で収縮することはできますが、伸ばす事はできません。
したがってある筋肉にトーンを発生させようとすれば、外力(他の筋肉の張力ないし重力、またはパートナーが引き寄せる力など)により、両端から引っ張られる力が必要になります。
そして筋肉の収縮力と外力が強くなればなるほどその筋肉のトーンが強くなるわけです。
 
(例1)他の筋肉の張力により引っ張られる場合
 
たとえば、腕に力こぶを作るとき、上腕を曲げる上腕二頭筋を収縮させますが、それだけで力こぶを作ることはできず、その反対側の上腕を伸ばすほうの上腕三頭筋を収縮して上腕二頭筋を引っ張ってはじめて力こぶができ、別な言い方をすれば強いマッスルトーンが発生するわけです。
 
(例2)重力により引っ張られる場合
 
たとえば、気をつけの姿勢を取り、つぎに肘を直角に曲げて上腕を水平前方に出し、バケツを支えたとします。そのとき、自分の上腕とバケツにかかる重力により、上腕を曲げている上腕二頭筋には引き伸ばす力が加わりますので、直角に曲げたままにしておくためには、上腕二頭筋に力が入りますので、弱いマッスルトーンが発生します。さらに、バケツに水を注いでいくと重たくなってきますので、バケツを持った腕の肘を直角にしておこうと思えば、上腕二頭筋にさらに力を加える必要があるため、マッスルトーンがさらに強まります。
 
(例3)重力により引っ張られる場合
 
ボールルームダンスでの例で言うと、添付した図のように、フロアに真っすぐ立つと、腹部の重心、胸部の重心、頭部重心が、ほぼ土踏まずのところの真上に来るので、各部の体重のほとんどは脊椎を始めとする骨格により支えられ、その姿勢を保つためには、各部の筋肉は最小限の収縮力だけで体重を支えるだけで済みます。
 
        

 
しかし、次にボールルームダンステクニックのポイズの項に書かれているように膝を少しだけ曲げ、体重を足のボールに置くと、重力に対抗して同じ姿勢を保つためには、いままで骨格により支えられていた体重の一部を足裏、足関節、ふくらはぎ、太もも、腰回りなどにある拮抗筋を収縮させて体重を支えなければなりませんので、それぞれの筋肉にトーンが発生します。

トーンの強さの目安

わたしの考えているトーンの強さのイメージを、仮にレベル0からレベル5まで分けたとします。たとえば脚と足の筋肉のトーンならば
 
レベル0 踏み台から飛び降りて立とうとしても、体重を支えることができない
レベル1 踏み台から音のしないようにふわっと床に飛び降りることができる
レベル2 一重縄跳びをすることができる
レベル3 二重縄跳びをすることができる
レベル4 トランポリンで高く飛び上がることができる
レベル5 踏み台から飛び降りて缶を踏み潰すことができる

 

なぜ筋肉にトーンを持たせることが必要なのか

 
(1)トーンのない筋肉はすぐに収縮力を出せない
 
筋肉は、細い筋繊維と太い筋繊維が混じり合って一つの筋肉の束を構成しています。それらが運動神経によって興奮すると細い繊維が太い筋繊維の間に滑り込み、収縮力が発生します。
しかし筋肉が弛緩した状態のままだと、滑り込むまでに若干時間がかかります。そのためトーンがある状態にしておけば素早く筋肉を収縮させることができ、素早い動きにつながります。

 

(2)筋肉にトーンをもたせると弾性を持つようになり、筋肉自身に弾性エネルギーを貯めることができる

筋肉にトーンをもたせておくと、弾性を持つようになるため、予め、筋肉自身に弾性エネルギーを貯めることができ、次にそのエネルギーを放出することにより、効率的な運動ができます。
これは、縄跳びをする時、誰でもが無意識にやっていることです。たとえば、縄跳びをする場合、トーンレベル1で着地すると、運動エネルギーを貯めることができないため、次にジャンプするとき、余計エネルギーを使う必要が出てきます。トーンレベル2以上で着地すると運動エネルギーを貯めることができるため楽に縄跳びを継続できます。

同様に、ワルツのライズ&ロワーをするときなど、下肢にトーンを持たせておけば、ロアーで下肢を屈曲させて貯めた弾性エネルギーをライズで利用できます。クイックステップのスキップフィガーでも同じことが言えます。

(3)拮抗筋によって、重力よりも大きな外力をかけるようにすると、より強いトーンをもたせることによって、より強い弾性エネルギーを貯めることができるため、急激な動きができる

多くの随意筋は、関節を曲げる屈筋と関節を伸ばす伸筋のペアからなる拮抗筋です。そのため、静止状態であっても、お互いに引っ張り合うことにより、強い収縮力を発生させ、強いトーンをもたせて置くことにより弾性エネルギーを貯めておくことができます。そうしておいて、拮抗筋のどちらか一方の筋肉を突然弛緩させると、強く引き絞った弓矢を射るのと同じで、もう片方の筋肉は、それまでに貯められていた弾性エネルギーを一挙に放出することにより、タンゴのクローズド・プロムナードなどのように急激な加速をすることが可能となります。

(4)良いポスチャー(姿勢)を維持するためにボディトーンを作る必要がある

猫背や頭を前に突き出したみっともない姿勢だと、美しい姿勢には見えないばかりか、ダンス上達のおおきな妨げになります。

まず、美しく上に伸びた上体を作るためには、ボディ背面の筋肉とボディ前面の筋肉を連動させ、それぞれの筋肉にトーンをもたせる必要があります。
このやり方については、ルッカ&ロレイン・バリッキの以下のレッスン動画のPart1(男子のポスチャー)とPart2(女子のポスチャー)で詳しく述べられています。日本語で要約をつけていますので、一度ご覧ください。

 

また、姿勢について、内臓を肋骨に納めろとか、おへそを引っ込めろとか指導されることがあると思いますが、これはインナーマッスルである腹横筋を収縮させてトーンを作るということにほかなりません。基礎的な要件なので、上のレクチャーでは触れられていませんが、ボディ・トーンを作るためには不可欠です。なお、腹横筋の両端は脊椎につながっているために拮抗筋はありませんが、内臓により常に伸ばす外力が働いています。