ステップ3までを物理学を使って説明しましたので、ついでにステップ4からステップ6も説明にトライしてみたいと思います。
 
これからの説明を、より理解していただくために、世界チャンピオンのナチュラル・スピン・ターンの分解画像を添付しておきます。分解画像を見ながら説明を読むとよりわかりやすいと思います。
 
予備歩 → ナチュラル・スピン・ターン終了まで(アルナス&カチューシャ組)
スライド元動画
 
ステップ3では一番高いところまでライズしましたので、ボディはその分位置エネルギーを与えられたことになります。このエネルギーをその次のスイング運動の加速に使わない手はありません。言い換えればステップ4からステップ6の動きをなめらかな振り子運動にするのが、最も楽に位置エネルギーを運動エネルギーに変換することが出来ますし、見た目にもワルツらしい軌跡を描くことが出来ます。
 
そういう振り子運動をするためには、ステップ4からステップ6まで女子のボディがターンをしながらもボディの軸そのものは自然でなめらかな振り子運動の軌跡を描いていくことが重要です。
男子が自分のボディを軸にターンしようとすると、きれいな振り子運動が描けません。上手になってくれば女子の動きを助けてあげるというのもありでしょうが、基本的にはあくまで女性がきれいな振り子運動の軌跡を描くのを助けるという意識を持って、踊ったほうがうまく行くと思います。
 
しかし、女子にそういう動きをしてもらうために、男子のフットワークは重要な役割を果たします。その注意点は以下のとおりです。
 
注意点1
 
ステップ3の終わりからステップ6のライズの終わりまで、二人のムーブメントを大きなワンスイングを描いて踊ること。
(スライド100くらいからスライド135くらいまで)
 
注意点2
 
男子はステップ4左足では内回りですが、その左足をちいさく出すのは厳禁。そろえたステップ3右足にきちんと体重をのせてロアーしながら、大きく左足で後退すること。スライド114を見ればわかりますが、左足を大きく開いています。そうすることによって女子に大きなスイング運動をする余裕を与えることが出来ます。ここで左足を小さく出してしまってワルツらしいスイングを損なってしまっている男子がいかに多いことか。
 
ステップ3完了時(男子は右足を左足にクローズ)(スライド102)
 
ステップ4の中間バランス時(スライド114)
 
注意点3
 
男子ステップ4左足後退のときの左足を置く位置に関する注意点です。ボルテクでは「左足後退」となっていますが、この位置には無理があり、現在実際に踊られているのは「左足後退やや横」です。引用したビデオではアルナス&カチューシャ組は右へ向きを変えながら左足を着地しているのでわかりにくいですが、ミルコ&アレッシア組の以下の分解画像のスライド80から90を見ると、「左足後退やや横」に置かれているのが理解できると思います。WDSFのテクニック・ブックでも、「左足後退やや横」となっています。
 
予備歩 → ナチュラル・スピン・ターン終了まで(ミルコ&アレッシア組)
スライド元動画
 
注意点4
 
注意点2とも密接な関係がありますが、男子ステップ4左足については、ボルテクのフットワークがTHTと書いてあり、かつピボットと指定されているので、ついつい左足トー(ないしボール)でクルッと回ってしまい、女子を振り回したり、音樂より早く回ってしまう男子をよく見かけます。しかし、そのすぐ下に「第4歩のフットワークはTHTとなっているが実際に回転が行われている間ヒールはフロアにコンタクトしている」とも書いてあります。
 
これはどういうことかというと、「ステップ4の左足後退のフットワークはTHTである。ヒールがフロアにコンタクトした後、ヒールをフロア上でスライドさせず、ボディを右回転させて行く(注)。それによりバランスを安定させつつ、無理なくボディの回転を継続させる」というように解釈すれば良いと思います。ただし、ここでは女子のスイング運動のエネルギーが男子の向きを変えてくれますから、男子が自分自身のボディを軸にして2人を無理に回転させる必要はありません。
 
注 股関節、膝関節、足首関節、中でも股関節の自由度の大きさがこれを可能にする。
 
スライド122では、スカートで若干見にくいですが、アルナスの左足はまだヒールがフロアにコンタクトしているにもかかわらず、トーは、ボディから見ておよそ左直角向きに開いています。
 
さらに、0.04秒遅れたスライド123では、アルナスのボディと右足は正面を向いていますが、左足はヒールがフロアから離れたにもかかわらず、トーは、ボディから見ておよそ左直角向きに開いたままなのが見て取れます。
 
ステップ5の中間バランス時(スライド122)
 
ステップ5の中間バランス時(スライド123)
 
 
なお、ここでもまだ、女子はワン・スイングを継続していますから、ボルテクには男女ともロアーとは書いていませんが、二人でワン・スイングを継続するために実際は膝を屈曲することによってロアーを継続する必要があるでしょう。
 
注意点5
 
その次の男子ステップ5右足前進と女子5歩目左足後ろ少し横へのところは、テキストには「5の終わりでライズ」、さらにステップ6では「アップ、6の終わりでロアー」と指示されています。アップというのは英語では高い状態を保つという意味で、上昇するという意味はありません。従って、「5の終わりでライズ」、さらに6歩目では「アップ、6の終わりでロアー」というのは、いわば4、5と平坦な道を走ってきて、5の終わりで土手をかけあがり、6で土手の上で一休みして、6の終わりでかけおりてくるといった動きになります。
 
いずれの動きも、3の終わりで始めたロアーをすることにより、与えられた運動エネルギーを利用して、5の終わりで土手をかけあがり、それにより与えられた位置エネルギーを利用して、再びかけおりる運動エネルギーに変換させるということになります。
 
注意点6
 
なおナチュラル・スピン・ターンに限らないのですが、スタンダード種目のいずれのどのフィガーであっても、男子がうまく踊れない第一の原因をあげろと言われれば、「首が前に出過ぎて、頭の重心が背骨の延長線よりも前に出てしまい、自分で自分のバランスを崩している」ことをあげます。とくにターンの時は、きちんと首を伸ばして頭を後ろに持っておかないと、女子のほうに持って行かれてしまいます。ナチュラル・スピン・ターンの5歩目で男子が女子のほうに引っ張られてしまい、その後の6歩目以降でうまく後退できない男子をよく見かけますが、頭の位置を直さないと、100%といっていいほどうまくできません。