(1)外界から受ける刺激によるリズム感覚発生の機序
人間はいわゆる五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅(きゅう)覚)があるが、そのうち、主として、視覚、聴覚、触覚によって、外界から与えられる刺激の、間欠的かつ規則的な変化をリズムとして感じ取ることができる。
この場合は、刺激が一定の大きさで継続する場合でも、間欠的ではあるが不規則に与えられる場合でも、リズムとしては感じない。
また、それらの間欠的刺激で、より刺激の大きいものが規則的に与えられた場合、それが3回ごとに与えられた場合は3拍子、4回ごとに与えられた場合は4拍子と認識することになる。
(2)内的な刺激によるリズム感覚発生の機序
もう一つは、人間の自発的なアクションによって発生する刺激を自分自身が受け取ることによりリズムとして感じることができる場合である。
これは、脳からの命令により、人体の全部または一部を、筋肉の収縮によって意識的に動かすことにより刺激が発生する。この場合は、五感による外界からの刺激ではなく、体内に広く分布する深部感覚器で感じることになる。
このとき、その筋肉の収縮でリズムを表現しようとするならば、定期的にその筋肉を収縮しなければならない。さらにその収縮の度合を3回に1回強くしたならば3拍子、4回ごとに1回収縮したならば4拍子を表現することになる。
たとえば、歩くときに両腕を振ると、遠心力により腕が引き伸ばされる方向に力が働くため、腕を振るたびに、深部感覚器が刺激を受ける。
また別な例としては、人体の一部を動かすことで同時に外界からも刺激を受ける場合がある。
たとえば、歩いて足が地面に着地するたびに、地面から逆に足裏に圧力がかかり、触覚による刺激を受けると同時に、体重により骨格を歪ませる力が加わるため深部感覚器にも刺激を受けることになる。
さらに、足が地面に着地してから、次の足によってボディを送り出すときにも、足と脚の筋肉を強く収縮させる必要がある。このような場合、筋肉がすばやくかつ大きく収縮すればするほど大きな刺激を発生することになる。
(3)注意すべき点
一つ注意すべきことがある。それはある人がリズムを表現するために、筋肉を収縮させたその結果、その人の体の一部ないし全体が動けば、他者から見てそのリズムを観察することは容易だが、動く部分の質量が大きい場合、かならずしも他者が観察することが難しいということである。
(4)ダンスにおけるリズムの表現
タンゴのように、スタッカートを強調した曲に合わせるためには、すばやい動きが必要である。そのことが、タンゴでは、ボディの動きでなく、足や脚のように質量の小さい部分でリズムを表現する理由だと考えられる。
現代のワルツやフォックストロットのように、ライズ&フォールを多用する場合、最も筋肉の収縮が必要なのは、スイング運動によってボディが最も低い点に達したとき、すなわちムービングフットが着地し、そこから重いボディをライズしてするときにリズムを表現するのではないかということである。
また、固有振動数ではなくて、別の時間間隔で腕を振るようにさせる場合は、脳は、固有振動数より遅くする場合は腕を振る速度を減速させる筋肉を収縮させ、反対に早くする場合は加速させる筋肉を収縮させるようにしてフィードバック・コントロールする。
その時腕に力を入れずに振ると、腕の長さと重量で定まる固有振動数で振れるため、一定のリズムで深部感覚器に刺激が与えられるのでリズムを感じることになる。