ボールルームダンス(Ballroom Dance)のballと、足の裏のボールのballとは、つづりは同じですが語源はまったく異なります。
語源については諸説ありますが、The American Heritage Dictionary of The English Language という辞書によると、前者は後期ラテン語のballare(踊る)から来ており、同系統の言葉としてはballet(バレー)、ballad(バラード)などがあります。
一方、後者は古英語のbaell(吹く、ふくらませる)から来ており、同系統の言葉としてはballoon(バルーン)、ballot(投票、投票用紙)などがあります。
ちなみに前者のバラードの原義は「踊りの時に歌われる歌」と説明されています。後者のボールが「ふくらませる」が転じて丸い形状も指すようになったことは容易に理解できると思いますが「投票」については、理解に苦しむかもしれません。しかし、昔は、ballotが小さいボール(otは小さいを意味する指小辞)という言葉であり、秘密投票を行うために小さいボールが使われていたということから転じたものと思われます。
なお現代では ballroom と1語で書きますが、私の持っている色々なダンスの文献には、古くは ball room ないし ball-room とかかれていましたし、フォックストロットも古くは fox trot ないし fox-trot と書かれていました。余談ですが、それらの文献のうち、古いものは、today や tomorrow も to-day ないし to-morrow と書かれていたものもありました。
さて、それではいつ頃からボールルームダンスと言う言葉が使用されていたのでしょうか。
これに関して、米国連邦議会図書館所蔵の1490年代から1920年代のダンスに関する文献200件以上を網羅しているデータベースで、ball room dance ないし ball room dancing という言葉が出てきている文献を発行年別に並べてみます。
これでわかるとおり、その中では、1824年に出版されたThe danciadという文献が一番古いもので、Prefaceにball-room dancing teacherという形で使われています。もちろんこれが一番古いとは限りませんが、このデータベースの中では、それより古いおよそ60ほどの文献では使われていないことから推測するに、18世紀末か19世紀初頭から使われ始めたのではないでしょうか。
なお、19世紀には、The drawing room dances と呼ばれた時期もあったようです。
出版年 | 文献 |
---|---|
1824年 | The danciad; or, Dancer’s monitor |
1832年 | Letters on dancing, reducing this elegant and healthful exercise to easy scientific principles |
1847年 | Leaflets of the ball room |
1870年 | The amateur’s vademecum. A practical treatise on the art of dancing |
1884年 | Dancing and prompting, etiquette and deportment of society and ball room |
1884年 | There is no harm in dancing |
[1885?]-1900年 | Traité de la danse |
1906年 | A history of dancing |
1907年 | How to dance the revived ancient dances |
1914年 | Modern dancing |
1914年 | The tango and the new dances for ballroom and home |
1914年 | The modern dances, how to dance them |
1915?年 | The complete system of English country dancing |
1916年 | A study in modern dance positions |
1920年 | Handbook of ball-room dancing |