ISTDのBallroom Technique とその翻訳書「ボールルーム ダンス テクニック」)は、現在でも販売されています。その序文でも書かれているように、優れたテクニック・ブックだということは衆目の一致するところだと思いますが、そうは言ってもわかりにくい個所が少なからずあります。

原因その1

その原因の一つは、この本にはダンスで使われるいくつかの用語の意味が説明されていますが、本文で使用されているにもかかわらず説明そのものが省かれていたり、説明が簡略化されていたり、さらには若干不正確な和訳がなされていたりしているからのように思われます。

tamaは、説明が省略されたり簡略化されていたりする理由は、このBallroom Technique が主として教師試験の受験者向けのために執筆されたため、受験者がすでに理解していると考えられることは簡略化しようとしたことによるものだと考えています。

そう考える一つ目の根拠は、足型図はボールルームダンスを学ぼうとする者にとって大変役に立つものであり、 Ballroom Technique より10年以上も前の Ballroom Dancing (アレックス・ムーア著、1936年初版)ではフィガーごとの男女の足型図がすでに作成されており、ステップごとに詳細な説明が付けられているにもかかわらず、Ballroom Technique に書かれている各フィガーの説明にはそれらの足型図が省かれていることです。

2つ目の根拠は、Ballroom Dancing の Introductory Section では、用語の意味にとどまらず、ムーブメントなどの説明も含めれば、50ページ以上にわたって詳細に説明されているにもかかわらず、ISTDのBallroom Technique(翻訳書名「ボールルーム ダンス テクニック」)では用語の説明はタンゴも含め、たった5ページだということです。

原因その2

もう一つの原因は、この本の記載内容が必ずしも現代のテクニックとは一致しない点があることです。

たとえば、競技会だけでなく、あるいはパーティにおいてさえも、ライズ&フォールは、フットライズ&ロアーだけではなく膝を大きく屈伸することによるレッグ・ライズ&ロアーを十分に使ったダイナミックな踊り方が使われています。

そういう状況を反映してか、2012年に出版されたWDSFのテクニックブックのライズ&フォールの説明には、フットライズ&ロアーとレッグ・ライズ&ロアーが含まれています。たとえば、ワルツのステップ1では、レッグ・ロアーを行って次にフット・ライズとレッグ・ライズを行うよう指示されています。

ところが、ISTDのBallroom Technique を元にした「ボールルーム ダンス テクニック」では、ステップ1では「1の終わりでライズを始める」としか書いていません。この理由は、Ballroom Dancing では、ライズ&フォールとしてはレッグ・ライズ&ロアーはなく、フット・ライズ&ロアーだけしか書かれていません。その後実際にレッグライズ&ロアーが取り入られるようになったにもかかわらずISTDの Ballroom Technique にそれを反映する改定を行っていなかったと考えるのが妥当でしょう。

ちなみにISTDの Ballroom Technique の序文でその功績を讃えられているアレックス・ムーアが実際に踊っている動画(無声ですが)をご覧になれば、現代の踊り方にくらべレッグライズ&ロアーが少ないことがわかります。→ 

現代のテクニックと異なるもう一つの例は、CBMの考え方です。「ボールルーム ダンス テクニック」では、CBMを以下のように説明しています。

「ボディ・アクションである。前方または後方に動いている足の方向に体の反対側が回転すること。通常回転を起こすとき。」

この和訳のもとになったのは、ビクター・シルベスター率いる1924年にイングリッシュ・スタイル・ボールルーム・ダンシングを標準化したISTD技術委員会の定義ですが、ビクター・シルベスターもあとを引き継いだアレックス・ムーアも、彼らの著書の中で、肩と腰は一体となって動かすべきであって、ウエストからひねってはいけないという旨の注意書きをしています。以下にアレックスムーアの Ballroom Dancing から引用します。

ピボットタイプの移動を除いて、このCBMは決して「その場にとどまって行う」動作ではないことに留意してください。 前進しながら右へターンする場合であれば、左側のボディの前方スイングを感じることが、ボディを意識的に右にねじるよりもはるかに重要です。

CBMは、ヒップと肩の両方の向きを変えなければなりませんが、前進しながら行うターンでは、ムーブメントは肩から動き始め、後退しながら行うターンは腰から動き始めると感じるようにすることが有用な場合があります。 これらの2つの異なるターンの精神的アプローチにおけるこの微妙な違いは、初心者に役立つはずです。

肩だけを独立してターンさせないように気をつけなければいけません、さもないと、みっともない沈み込む動きが起こります。

覚えておくべき最も重要な点は、CBMはステップする方向を変えるわけではないことです。 多くのダンサーの共通の欠点は、CBMが使われるとき、ステップのアライメントを変更してしまうことです。 その例は次のとおりです。

(以下続く)

しかし、現代の競技ダンスの踊り方では、CBMと指示されているところでは肩と腰をウエストを境にしてひねるアクションが普通に行われています。WDSFのテクニックブックでは、そのアクションをRotationと定義し、そのRotationを4種類に場合分けしていますが、CBMはその用語の一つとしてのLightness Rotation(CBM – Contrary Body Movement) という形としてだけ残っています。

上に例示したのは、典型的な例に過ぎません。ダンスのテクニックは実際のダンスでの進化が先行し、それに遅れてテクニックブックがまとめられているというのが、さまざまなテクニック・ブックの内容とダンス動画を観察してきたtamaの実感です。

原因その3

テクニック・ブックに記載されている内容はどんな場合でも当てはまるわけではありませんが、そういうことについてはこの本ではそういった注意はなされていないのがその原因だと思われます。

これについては、アレックス・ムーアが、Ballroom Dancing の中でそれを戒めています。下記に引用します。

ノーマルフットワークが使用されていない場合の重要な注意事項

熱心なダンス学習者にとって、ライズで使用されている通常のフットワークを理解することは最も重要ですが、そうとは言え、その一方でライズを支配するスタンダード・テクニックをきっちりと守ることは絶対不可能だということに留意しなければなりません。主要なアマチュアダンサーとプロのダンサーのフットワークおよびスローモーション動画のフットワークを慎重に研究したところ、この点は疑いの余地がありませんでした。

このスタンダード・テクニックと現実の実践との間のこの明らかな不一致は、しばしば、彼らの知識をほとんど文章で記載されたものだけに頼らざるを得ないダンサー達が、現代のダンスを杓子定規でぎくしゃくした解釈をしてしまう結果をもたらします。何年にもわたって標準化されてきた技術から離れるという考えを嫌うダンサーやダンスを習う生徒は、現在のテクニックは基本的には理にかなったものかもしれませんが、そのテクニックは、ムーブメントやターニングの自然法則とは関係づけられないあらゆる細部を文字通り順守するということであって、それは間違いだということを忘れないでください。読者がこの点を理解するのに役立つ例がいくつかあります。

(以下続く)

結論

日本では、この書籍があたかもバイブルのように扱われている向きがないではありません。しかし、アレックス・ムーアが戒めているように、そこに書かれていることを自己流で解釈して、その解釈が絶対的に正しいとみなしてはならないと考えます。もちろん、最新のWDSFのテクニック・ブックも非常に改善されているとは言え、しかりです。

ISTDがこの書籍を改訂版を出すことを願ってやみません。

感想

あくまで個人的な意見ですが、何が正しいかは実際のダンスがどれだけ魅力的なのかによって決まるものであり、テクニックブックによって決まるものではないと考えています。tama 個人としては、ワルツなり、タンゴなり、フォックストロットなり、それぞれの音楽をよりよく表現できるムーブメントが望ましいと考えています。