お詫びと訂正 2022年3月3日

ボルテクでは、ナチュラル・スピンターンのステップ1などに「1の終わりでライズ」と書かれています。この意味を以下のように誤解されている方が少なからずあるようです。

「1の終わりでライズ」=「ステップ1の終わりの方でかつステップ1が終わるまでにライズする」

しかしBallroom Dancing第10版 Definition / Step では、以下のように書かれています。

Step.*
ステップ

This usually refers to one movement of the foot, although from a “time value” point of view this is incorrect. In the case of a walk forward or backward, for instance, the time value of the step is not completed until the moving foot is drawn up to the foot supporting the weight, ready to commence another step. Thus, when instructed to rise at the end of a step the dancer should not commence to rise until the moving foot is passing the foot supporting the weight of the body.
これは通常、足の1回の動きを指すが、「時間値」の観点からは正しくない。たとえば、前進ウォークあるいは後退ウォークの場合、ムービング・フットがサポーティング・フットに引き寄せられて、別のステップを開始する準備ができるまでステップの時間値は完了しない。したがって、「ステップの終わりにライズ」と指示された場合、ムービング・フットがサポーティング・フットを通過するまでライズしてはならない。

したがって、「1の終わりでライズ」=「ステップ1の終わりの方でかつステップ1が終わるまでにライズする」と考えるのは、明らかに間違いです。

なお、The Ballroom Technique およびその翻訳書のボルテク、Ballroom Dancing などで書かれている Rise (ライズ)とは、The Revised Technique およびその翻訳書のリバテク)、Ballroom Dancing で明示されている通り、フット・ライズのことであり、レッグによるライズ&フォール(膝の屈伸によるライズ&フォール)は含まれません。

参考のために、もと世界チャンピオンのミルコ&アレッシアのワルツのストロボ画像をお見せします。ページを送ってフットライズの部分をご覧ください。

Basic Waltz Demo (Music) by Mirko & Alessia (200) 20220118

Basic Waltz Demo (Music) by Mirko & Alessia

そして、最初に指摘した誤解を解こうとして、この「英語から理解する At the end of (~の終わりで)」という記事を書きました。しかし、「at the end of ~」に関する私の勉強不足のせいで、読者の方々を混乱させてしまいました。そのことを読者のかたにお詫びするとともに、訂正後の記事「英語から理解する At the end of (~の終わりで)訂正版」を掲載したいと思います。

そして、私の勉強不足をご指摘いただいたシグマさんとAnonymousさんに感謝申し上げます。

 

以下修正前記事

ボールルーム・ダンス・テクニック( ISTDの The Ballroom Technique をJBDFが和訳した教本。通称ボルテク)で、「1の終わりでライズ」あるいは「3の終わりでロアー」などというように「~の終わりで~する」という表現があちこちで見られますが、ボルテクをお読みになっている方は、これをどのように解釈されているでしょうか。
 
これらの1や3というのが、ボルテクのチャートの左端の欄のステップの番号だというのはだれでもすぐにわかることですが、その後の説明が日本語なので次のように理解されているのではないかと思います。
 
「1の終わりでライズ」=「ステップ1の終わりの方でかつステップ1が終わるまでにライズする」
 
「3の終わりでロアー」=「ステップ3の終わりの方でかつステップ1が終わるまでにロアーする」

しかし、原文の英語を正確に理解しているならば、以下のような意味になるように翻訳すべきでした。

 「1の終わりでライズ」=「ステップ1が完了したらすぐにライズという動作を始める」
 
 「3の終わりでロアー」=「ステップ3が完了したらすぐにロアーという動作を行う」
 
tama注: Rise(上昇する)もLower(下降する)もそれぞれの動作を行うという意味ですが、その動作をいつまで継続するかという意味は含まれていません。
 

根拠その1

ボルテクのもとの The Ballroom Technique ではこれらは以下のように記載されています。
 
 “Com to rise e/o 1”
 
“Lower e/o of 3”
 
 The Ballroom Technique では Com はcommence(~を始める)、 e/o は end of の省略語であると説明されています。
 
たしかにこの end of だけでは、「~の終わり」は一般的な日本語では「ある物事の最後の一部分」という意味ですし、さらに以下のように英語の end にもそれと同じ意味があります。
 
End

1. singular noun

The end of something such as a period of time, an event, a book, or a film is the last part of it or the final point in it.
期間、イベント、本、または映画などの何かの ”End” とは、それの最後の部分またはそれの最後のポイントである。(拙訳)
 
The £5 banknote was first issued at the end of the 18th century. [of]
The report is expected by the end of the year. [of]
You will have the chance to ask questions at the end.
 
出所:Collins Cobuild Learner’s Dictionary
 
そのため「1の終わりでライズ」ないし「3の終わりでロアー」と翻訳しても間違いとは言えません。
 
しかし、実は、 “Com to rise e/o 1″ や”Lower e/o of 3” のままでは、 極めて不自然な片言の英語にしか聞こえません。
 
これらの e/o 1 あるいは e/o 3 は、at the end of 1 ないし at the end of 3 と解釈して初めて正しい英語になります。
 
tama注:  The Ballroom Technique でそのような書き方をした理由は、英語が横書きでかつアルファベットしか持たないために、文章を記載する際しばしば省略語を使ったり、特に表形式の場合、同一欄で共通に使われる単語(今回は “at the ” )を省略することは珍しくないからだと推測されます。
 
at an end ないし at the end of ~ という前置詞句の意味は、アメリカ英語、イギリス英語のいずれも以下の意味です。
 
At an end
phrase

If something is at an end, it has finished and will not continue.
もしなにかが at an end の状態であるということは、それが完了し、かつ継続しないという状態にあることである。
 
The court has passed sentence and the matter is now at an end.
The recession is definitely at an end.
 
 
出所:Collins Cobuild Learner’s Dictionary
 
つまり、at the end of ~ というのは、of ~ がすべて終わった時点ということになります。
 
(注)
なお辞書ではat an end と記載しているのに対し、私の解釈では at the end of 1 などのように書いているので、この解釈が正しいという根拠にはならないと考える方もいらっしゃるかもしれませんが、この場合、of 1 のようにof 以下で特定の end であると限定されているので、不定冠詞の an の代わりに、定冠詞の the をつけただけですので、意味は同じです。
 
たとえば上の例で言うと下図の▲印の時点です。

 

 

たとえば、ボルテクで言えば、ワルツのナチュラル・スピン・ターンのステップ3の男子では以下のようになっていますので、ステップ3の指示が全て終わった時点からロアーを始めるということです。すなわち足の位置で言えばステップ3で「右足 左足にクローズ」してから、ステップ4で「左足を後退」しながらロアーせよ」と記載していることになります。
 
 
つまり、最初に説明したように、和訳文を根拠にした解釈は誤りで、以下のように解釈するのが正しいということです。
 
「1の終わりでライズ」=「ステップ1が完了したらすぐにライズを始める」
 
「3の終わりでロアー」= 「ステップ3が完了したらすぐにロアーする」
 
根拠その2
 
また、このことは、最近手に入れたアレックス・ムーア(Ballroom Techniqueの著者)の著書 “Ballroom Dancing” およびビクター・シルベスターの著書 “Theory and Technique of Ballroom Dancing 1936 Edition” でも、読者が勘違いしないようにわざわざ注書きをつけています。
あとでその個所を引用して記載します。

 

誤解が生じている原因

このような誤解が生じている原因は、現在出版されているISTDのThe Ballroom Techniqueは第10版(1982年)以降改定されておらず、しかも、その中のライズ&フォールはフットライズ、フットロアー、ノーフットライズだけであり、レッグロアー、レッグライズが含まれていないからです。もちろんISTDのThe Ballroom Techniqueを翻訳したボルテクについても同様です。

その根拠はいくつかありますが、フットとレッグによるライズ&フォールは以下のような違いがあるのに対して、チャートのライズ&フォールでは、どのフィガーにおいてもライズから始まっていることがその根拠の一つです。

フット  くるぶしを伸ばしてライズし、それからくるぶしを元に戻してロアー

レッグ  膝を曲げてロアーし、それから膝を伸ばしてライズする

 

実際のムーブメント

実際には、プロやアマチュアのトップクラスの方たちのワルツなどの動画をご覧になれば一目瞭然ですが、(ステップ3で)「右足 左足にクローズ」してから、(ステップ4で)「左足を後退」しながらロアー」しています。
 
以下にナチュラル・スピンターンの分解画像のスライドを掲示してあります。
 
 
ですからそのステップで踊っている限り、「~の終わりで~する」を、 「3の終わりでロアー」= 「ステップ3の終わりの方でかつ完了するまでにロアーする」と誤解していたとしても現実的な問題にはなりにくいと思います。
 
しかし、ボルテクないしWDSFのテクニックブックをより深く分析しようとするならば、こういった英語と日本語の違いがあり得ることを意識しておくほうが良いと思います。